夕暮れの国 / 篠田葉子
風はあの子から吹いてくる 夏の陽に光るきれいなままの上履き
リプトンの紙パックにはストローを挿してひとすじ輝ける道
苗字じゃないほうであの子に呼ばれたらそれは人生が交わった音
ふたりきりなのに小声で教わった世界の真実 飛んでゆく鳥
相槌のかわりにオレンジのグミを分けあっていた夕暮れの国
ずるいじゃん 窓のむこうを見つめつつそんな掠れたやわらかい声
誰でもいいけどわたしだった 教室をふたりで出ていくときにわかった
滅びとは夕暮れ 25mプールは揺れて揺れては燃えて
ひまわりは立ったまま死ぬ立ったままふとうなだれたときに死ぬんだ
神話って呼ばせてほしいあの夏の触れたら消えるような横顔
※過去発表した連作「夏の星座になる物語」を加筆修正したものになります