ともしびのうた

短歌/永遠と一瞬と欲望と星とバナナの話

【短歌連作】シュレディンガーの恋人/篠田葉子

シュレディンガーの恋人/篠田葉子

 

居住地間の距離が交際関係や期間に及ぼす影響について

 

この日々が共著論文 いつになればみんなに謝辞を告げられるのか

 

煌々とバスターミナル じゃあ、また の、の長さで夜を測れば

 

明後日は雪の予報のきみの街 重力加速度で愛してる

 

対をつくれば強くなるから少女らのツインテールは翼の名残

 

口元のほくろを思い出したとき魚群のなかのひかる一匹

 

惰性とか将来性とか 二の腕を滑るくちびるぬるかったこと

 

野良猫をきみの名で呼ぶ 呼んだってここには来ないことに慣れてる

 

生きているかもしれなくて死んでいるかもしれなくて そっち降ってる?

 

ほしいときにくれる会話の糸口のアウフタクトのような短さ

 

曲がり角の先は見えない 恋人がいるんだろって笑っていいよ

 

(捨てられるかもね)わたしの帰路に撒くパンの代わりの梅のはなびら

 

パズルゲームのつめたい光できるだけ多くつなげて消せ、ってこわい

 

感情をまとめられずにあと何度夜行バスから見るだろう夜景

 

会うたびに実験装置は開けられてふたりはシュレディンガーの恋人

 

 

 

※過去発表した連作「シュレディンガーのわたしへ」を加筆修正したものになります

※現代詩歌のプラットフォーム「suiu」でも公開しています https://suiu.bubbleapps.io/rensaku/1694580673025x779055196478636000